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インフラ、Goの割合が多い技術ブログ

リモートワークのITエンジニアが地方移住して1年が経ちました

はじめに

2020年初頭、新型コロナウィルスが世界に拡散しました。日本でも続々と感染者が増えていき緊急事態宣言等の発令が行われたことは記憶に新しいことかと思います。感染防止のためリモートワークに移行する会社が続々と出始め、弊社も比較的早い時期からフルリモートが前提の体制となりました。

そんな中都内で一人と一匹(猫)で暮らしているITエンジニアである私はこのまま都内に住み続ける意義について改めて考え、最終的に地方移住へと踏み切りました。それから1年が経ったので改めて振り返り地方移住の現実について一例を共有し、迷っている方の参考になればという思いから今回筆を取りました。

言うまでもないかとは思いますが、これは私の来歴と置かれた環境が前提となるため全ての人に当てはまる普遍的な知見ではありません。いたずらに「地方移住最高!」とか「地方はクソ!都会最高!」等という煽りをするつもりはなく、また一口に「地方」といっても場所によって様相は様々であるためあくまで一例として参考にして下さい。

背景と目的

中の人の簡単な背景としては地方(スキー場のあるような田舎)と都会(神田や六本木等の都心)両方で居住或いは働いたことがあり、その上で今回地方在住+リモートワークという視点での振り返りになります。

地方移住で実現したかったこと

そもそもなぜ移住しようと思ったのか?という点についてですが第一は金銭面です。東京で最後に暮らしていた物件は浅草近郊と比較的お値段の張る地域で、間取りは1Kでしたが41m^2と床面積が広いため家賃が12万円ほどと中々の金額でした。これは猫を飼育しているためある程度の床面積が欲しかったというのが一番の理由であり、加えてリモートワーク環境下で仕事スペースと生活スペースを分離したいという理由もあります。更に会社への通勤が復活した場合に行きづらくないよう乗り換え不要且つそこまで遠くない駅で選定した結果このような金額となりました。場所にもよりますが地方では恐らく同等の物件を半額以下で借りられるかと思います。

第二の理由としては自動車趣味を復活させたかったというものがあります。一時は自動車整備士を志そうかと思っていた時期もあるくらいには自動車が好きでありいつかは自分の車を所有してサーキット走行等を楽しみたいと思っていました。しかし都心でそれを行うには車両維持費に加え郊外にアパートを借りられそうなレベルの高額な駐車場代を払っていく必要があり、私の金銭感覚としては過ぎた道楽に思えずっと胸の内側にしまっていました。しかし地方であれば話は別で、そもそも自動車は生活必需品に近いため生活用具(私の場合は兼オモチャ)として自動車を用意することになります。渋滞や複雑な交通標識も少なく気分転換に車を流したりしやすい場所が多いです。個人的には自動車が不要だったり、駅の近くが栄えているような地域を今回の文脈で「地方」と分類するのは違和感があります。

移住先

で、どこに移住したのかというと新潟県中越地方にある実家にしました。縁もゆかりも無いところで一人暮らしするという案についても色々と検討したのですが、一番の目的である金銭効果を最大化するにはやはり実家が一番であるという結論に至りました。実家でないところで同等の効果を得ようとすると極端な田舎に行く必要がありそうで流石に不便さによるデメリットが無視できません。この地域は毎年それなりの積雪がある地域でありウィンタースポーツを嗜まない私にとってかなり不便なところなのですがカネの力に負けました。はい。

新潟であれば時折出社する際も新幹線1本で東京駅まで出ることができ地図上の距離から受ける印象より手軽です。交通費が支給されるという前提で週1回程度であれば特に苦痛には思いません。

住環境

元々6名の2世帯住宅で作られているところに4名(両親、弟、私)で暮らしているため部屋数や床面積については特に問題ありません。敢えて言うならば余分なスペースがあるためガラクタが溜まりやすいのは難点かもしれません。

また築50年超の木造家屋なのであちこち隙間風が吹いて寒い、暖房をエアコンに頼っているため契約電力に余裕が無くたまにブレーカーが落ちる(既に60A契約……)、駐車スペースが無い、等々の難点もありますがこれは致命的というほどではありません。

仕事で必要になるインターネット回線については普通に光ファイバーが使える地域で、日中でも夜間でも数百Mbpsのスループットがあり東京とのレイテンシーも数msであり特に問題ありません。

お金まわり

移住にかかった費用

ざっくりと2,600,000円ほどかかりました。内訳は以下の通りです。

  • 自動車購入費用: 2,300,000
  • 退去費用: 240,000
  • 引っ越し費用: 100,000

最も大きい自動車購入費用は諸経費やオプション、後付パーツ等全て込みの金額です。しかしこれは私がずっと欲しかった車種で、且つ新車であったため不必要に高い金額です(人生で一度は新車を購入してみたいと思っていた……)。こだわらないのであれば20〜30万円程度の過走行車でも当面なんとかなると思います。

次点の退去費用ですが先述の通り私は猫と暮らしており敷金が家賃2ヶ月分且つ償却という契約なので退去すると全額がボッシュートされます。 ヤクザかよ 引っ越しを決断した次点で半年しか住んでいなかったためこれも費用と考えます。

引っ越し費用は普通に引っ越し屋さんに見積もってもらっただけなので特別なことはありません。

また入居先が実家であるため敷金礼金等は必要ありません。

費用の回収

自動車の残価を低めに1,700,000円ほどと見積もると(中古車サイトで数年落ちが大体このくらいだった)実質かかった費用が900,000円となり浮いた生活費で割るとおおよそ7, 8ヶ月程度田舎暮らしをすればペイする計算になりました。具体的な収支内訳についてはプライバシー的な面でアレなので期間だけで許して下さい。どうしても知りたいのであれば私と個人的に仲良くなってから聞いて下さい。

但し早いほど自動車の残価が大きくなるため実際にはもう1, 2ヶ月早くペイできていると思ってよいでしょう。ちなみに完全に余談ですが私が購入した車種(S660)は契約直後に絶版車となり中古車相場が新車並みの値段になるという幸運(?)がありました。

引っ越しを決行した次点では会社のリモートワークについての方針が固まっておらず半年〜1年程度で通勤を再開する可能性もありました。しかし実際にそうなる可能性は低そうであると踏んだこと、半年少々あれば金銭的な損は少なくなるため見切り発車で移住を決行しました。その後会社から当面はリモートワークを続けるという方針が打ち出されたため結果的に賭けに勝利したわけですが、最悪のケースでも許容範囲内の損失であるため分の良い賭けであったと思います。

良かったところ

ネガティブ面は見えにくいですがポジティブ面は見えやすく、あまり知見にならないと思うので簡潔に箇条書きするだけに留めます。

  • 目論見通り費用削減でき資産が増えた
  • 学生時代の同級生らとの関係が復活した
  • 自動車遊び(サーキット走行や素人整備)がとても楽しい
  • ソロキャンプという新しい趣味ができた
  • 米が美味い

しんどいところ

以下はあくまでも私の住んでいる地域での事例です。

車文化

私個人としては車の運転や自力整備が好きなのでどちらかというとメリットなのですが、そういった人は少数派なのでデメリットに分類しておきましょう。

移住先によりますがスーパーやコンビニまで徒歩移動が不可能な場所に家が経っているのは割と当たり前なので自動車が無いと行動範囲が非常に狭くなります。自動車は住居に次いで高額な買い物であることが多くまたランニングコストも高額になりがちです。時には事故や故障で予定を急遽変更せざるを得ない場合もあり都会の電車生活とは違った苦労があります。

また運転操作はある程度慣れが必要であり更に地域文化によって暗黙の作法が異なるところもあるので長年のペーパードライバー歴から復活しようとすると最初は怖い思いをすることが結構あると思います。

店が早く閉まる

これは特に飲食店で顕著です。もちろん都心でも早く閉まる店は一定数あるのですが、終電前であれば大体の店が開いており特に食事で苦労はしないと思います。しかしこちらでは飲み屋でも21時程度までのところが散見されラーメン屋等の酒類が中心でない飲食店では20時前後で終わりのところが多いです。コロナ前はもう少し遅くまでやっている店があったようですが現状はこういった状態になっています。車で外食しにいくつもりだったのにちょっと仕事が長引いて結局どこにもいかなかったということは割とよくあります。

私の場合他に温泉やホームセンターによく行くのですが、こういったところは18〜19時で閉まるのはザラなので休日に複数回る場合は時間に気を付けなければなりません。

但し何でもかんでも早く閉まるというわけでもなく、スーパーマーケットとドラッグストアの類は22時くらいまでとそれなりに遅くまで開いています。店舗によっては24時までのところがありコロナ前では24時間営業のところもありました。

UberEats, 出前館等の宅配が無い

実家が住宅街の真ん中にあるので尚顕著なのですが、UberEatsはサービス対象外で出前館の範囲には花屋しかありません。飲食店も配達圏外です。市内にピザ屋が1件もなく最寄りは車で片道30分程度かかるので、無理に自宅でピザを食べようとすると車がピザ臭に満たされた挙げ句冷めたピザを貪るハメになるでしょう。

リモート飲み会的な行事がある場合は事前に食料品を用意しておく必要があるので結構面倒です。前述の通り仕事が終わってから調達に出かけるとコンビニか牛丼くらいしか用意できません。

雪・凍結

新潟県は日本有数の豪雪地域です。マスメディアに出てくるような特に雪深い地域(小千谷、越後湯沢、十日町、等々)でなくとも積雪50cm〜1mくらいは割と普通で長靴は必須装備で、とても歩きにくく交通事故のリスクが高まります。

降雪時は除雪車が出動しますがそれでも道路幅が狭くなっているところが多く自動車の運転には注意を要します。立地条件によりますが車を出す場合に車庫や駐車場前を除雪する必要がある場所も多いです。降雪前(大凡10月〜11月初頭頃)にはスタッドレスタイヤに履き替える必要があるためその分の出費が余計にかかります。

またバラつきは大きいですが降雪が多い年は家の屋根から雪下ろしをしなければならないことがあり、実際移住直後の2020年末〜2021年初頭に複数回動員されました。今年はそれほど多くなさそうなので多分雪下ろししなくても大丈夫でしょう。

バキバキに凍結した路面(ABSとTCSが大活躍)
融雪パイプ(車は走りやすいが歩きにくい)
積雪の様子(日常的な量)
雪道走行中の様子

フラっと飲みに行けない

都心は近所や通勤圏内に飲食店がありますが私の立地では最寄りの居酒屋が徒歩30分程度かかるので思いつきで一人飲みをする機会が減りました。まぁこれに関してはお財布や健康の観点から良いことなのかもしれませんが……。それでも飲み友達を誘ってフラリ秋葉原御徒町に飲みに行けなくなったのはちょっと痛手に思っています。映画、酒、ラーメンのコンボが恋しい。

運転代行を使う手も無いではないですがやや特殊な車種でありあまり他人に運転させたくないのでまだ利用したことはありません。

よくわからないこと

地方vs都会的な記事でよく書かれている人間関係についてですが、私は近所付き合いをしないタイプであり且つ仕事面で地域に依存していないので特段関わりがなく正直よくわかりません。いずれにせよリモートワークであるならば万一村八分に遭っても困らないので然程憂慮する必要はないでしょう。

ただスーパーや居酒屋等で聞くでもなく聞こえてくる他人の会話からすると色々と前時代的なところも残っているようなのでその辺りがしっかりしている環境から来ると結構モヤモヤ感があります(特にセクハラ系……)。

考察

実家や知り合いのツテで大幅に経費削減が見込め、且つ地方の方がやりやすい趣味(モータースポーツ、ウィンタースポーツ、アウトドア、等々)を継続する人は移住効果が高くQoLの向上が見込めそうに思います。但しその場合も年間にどの程度経費削減でき、趣味に関して何回程度やりどの程度楽しめそうか細かくソロバンを弾き失われる都会生活のメリットと天秤にかけるべきです。UberEatsが無くても大丈夫ですか?電車やバスは1日に何本ありますか?

反対に自動車運転免許を持っていない人、地方への漠然とした憧れはあるが実現したいことが明確でない人、地方の方がやりやすい趣味を『始めてみたい』レベルの人は安易に移住を行うと「こんなはずではなかった」「然程お金が浮かない割に不便が大きくてコスパ悪い」等といった事になりかねません。憧れや理想ではなく移住後のリアルな生活を想定することが重要です。この対策としては事前に偵察を行うとよいですが、その際は旅行よりも実際に現地(居なければ似たような地域)に在住している人に話を聞くのが最も良いでしょう。

終わりに

私としては移住を実行して良かったと思っています。デメリットは大きいですがお金が増え趣味が充実しました。

冒頭にも書きましたが、私の場合は元々地方出身者で労働もしたことがありリアルな生活が予想しやすく移住後のギャップは皆無でした。世の中は「xxは良い!yyはダメ!」というような単純なことは少なく、様々な要素から検討し総合的に判断する必要があります。移住を検討する際は上記のような事例を参考に本当に自分の幸せに繋がるのか深く考察することをオススメします。