体はドクペで出来ている

インフラ、Goの割合が多い技術ブログ

書評 カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで

はじめに

この本は開発の現場で実際にありそうな問題・困難を題材にアジャイル開発を解説する本です。

www.shoeisha.co.jp

主人公である江島さんが問題を抱えたプロジェクトの中で七転八倒しつつも自らの努力と周囲の協力を得て解決、成長していくというのが大筋の流れです。全部で3つの部に分かれており、第1部では自分一人での取り組み、第2部ではチームを対象にした取り組み、第3部では社外のステークホルダーも巻き込んだ取り組み、といった具合に取り扱う問題が徐々に大きくなる構成になっています。いずれもある程度IT業界で仕事をしたことがある方であれば似たような事例を体験したことがありそうで妙な共感を覚えました。

解説はアジャイル開発が大きな割合を占めますが、紹介される手法は開発以外の職種でもできようできそうなことが多々ありますので現状に何らかの問題・不満がありつつもどう改善していけばよいのかわからず行動に移せていない人にとっても有用ではないかと思います。

読書メモ

第1部

  • 問題を手当たり次第解消しようとしても効果が薄いのでまずは可視化
  • It is easier to ask forgiveness than permission. の下小さく始める
  • 分割統治
  • マルチタスクはスイッチングコストが大きいので数に制限を設ける
  • 複数人で取り組めると互いが影響を与え合いより良い効果が生まれる(建設的相互作用)
  • リズムを作ると取り組みを維持しやすくなる

第2部

  • 完成の定義・受け入れ条件
  • 期待マネージメント
  • 狩野モデル
  • 過去を元に現在を正す「ふりかえり」だけでなく、進む先を正す「むきなおり」も活用する
  • 短時間で集中して会議の成果を出すためには合宿が有効
  • タックマンモデル

第3部

感想

この本を読んだ時にまず「前職時代に読みたかった」と思いました。当時は独立系SIerに勤務しており技術ブログの執筆者を増やす取り組みや社内勉強会の運営で非常に苦労していたからです。これらの活動は直接自分が責任を持つべき仕事ではありませんでしたが、技術を扱う会社として是非やるべき *1 と思っていたことで自ら手を挙げて取り組んでいました。これを進めるにあたりどう他人を巻き込んで進めていくのか毎日悶々としていたことを思い出します。いま振り返ると結果としてある程度良い取り組みができていたところもあるのですが(一人で技術ブログを書き始めことあるごとにSlack等で宣伝していたり)、常に暗中模索なのは心理的に辛かったです。この本を先に読んでおけばもっと自信を持って且つ継続して取り組みより大きい成果 *2 を挙げられたかもしれません。

私の現在の仕事ではマイクロサービスアーキテクチャーの下で開発を行っており、書籍のように単一のチームで一つのソフトウェアを開発する場合とは状況が異なります。ですが書籍に登場した各種ステークホルダーを自分の業務に置き換えてみるとxxさんかな、といった具合に想像することができたので大筋同じ考えで適用できるのではないかと思います。ただリモートワークを前提とすると何かもう一工夫が必要なのではないかという気もします(まさに書籍に紹介されていたように「方法論や他所の成功事例をそのまま持ってきても大概上手くいかない」ということなのでしょう)。

私自信はプロダクトの方向性を左右する立場にあるわけではありませんが設計を作ったりコードを書いています。正直なところ今の職場が初めての大規模開発でコミュニケーションがあまり上手な方ではないという自覚はあるため、特に第2部は「完成の定義」「受け入れ条件」「期待マネージメント」等参考になる点が多々あり今後の改善・成長に向けて大いに役立てられそうでした。

アジャイルサムライが手法の紹介を主眼においているとしたら、本書はストーリーをベースとすることで読者によりリアリティを持たせポイントを理解しやすくしたものという印象でした。より効果的に学習するのであれば、まずアジャイルサムライ等他の書籍でアジャイル開発に関する用語を大体頭に入れた上で本書を読むのが良いのではないかと思います。

技術書やプラクティスというよりはIT業界での良い仕事の進め方といった具合ですのでこの業界に関わる人であれば一読の価値はあるでしょう。

*1:主に社員の技術力向上、採用、業界還元を目的として

*2:当時の成果としてはブログを通して案件の引き合いが来たり書く人が徐々に増えてきたり等、小さいながらも成果が芽吹いていた気はします。取り組みに対して目標を設定して振り返りによる改善と他人の巻き込みをすればよかったなぁと今は思います。